第四話
「サーヴァントの召喚って簡単に言うけどどうすればいいの?」
「サーヴァントの召喚はさっきも言ったけど、霊装を媒体として守護霊……サーヴァントを召喚する。即ち霊装さえあればいい」
「霊装、たって、そんなものもってないよ」
レンは両手を上げて、何も持っていないことをアピールする。
「何を言ってるの? リンから剣を貰ったでしょう?」
「剣。このことかい?」
そう言って、剣を取り出す。
「実はこれは200年以上土の中に埋もれていたらしいわ。炎の属性を持つサーヴァントが生まれるはず」
「200年……にしては、綺麗じゃないか?」
「あなたは何も言っても通じないようだけど、既にその剣は実体をなくしていて、概念として成り立っているだけなの。概念となると『それが一番綺麗な完璧の状態』でしか成り立たない、というかその状態しかうつさない。周りの空気やレンや私のような『実態を持つ存在』は概念の状態である霊装に対し干渉ができない」
「でも、僕やリンはこの剣に触れる」
「それはね」ルカは疲れたのか近くの椅子に座り、「霊装は思考、考えたり思ったりする力があるの。また、霊装には自己決定権があって、唯一『干渉を許す』存在を選ぶ。リンはレンと双子だから、似ている存在と霊装が判断したのでしょう」
なるほど。とレンは思った。そして剣を再見した。
剣はぼんやりと光っているようにも見えた。
***
そのころ、城。
城主である鏡音リンは、城に聳える塔の頂上から、空を眺めていた。
「しつれいします」
ノックと同じに聞こえた声に、反応するリン。
「どうぞ」
リンの声に反応して、扉を開ける。
そこに居たのは、紫の髪のメガネをかけた男。
――神威がくぽ。
インターネット家の異端児として知られ、数年前ルカの手引きでシシリアル帝国からスクヴァトスへやってきた科学者である。
リンはなんとなくがくぽがルカに抱いている感情に気がついてはいたが、あえてそこは言わないでおいた。それも彼女なりの優しさ、彼女なりの応援である。
さて、がくぽ博士はとある研究をしていた。
それは『現実の外側』について。
しかし彼は『Dr.リアリスト』とも呼ばれる。非現実を追求しているのに、あだ名が現実主義者とはなんとも皮肉なものだ。
「どうしました? ナスならあなたの部屋に持っていかせましたが?」
「ナスではないのだよ。少し聞きたいことがあってだね」
「なんでしょう?」
「私の研究文書が消えてしまったのだが……。あの書庫に誰か入れたのか、ということを尋ねたくてだね」
がくぽ博士は早口ながらもはっきりとした口調で言った。
「……分かりませんね。あなたの書庫はもともとあなたにしか鍵を渡していないはずですが」
「そうか」少し項垂れ、「では、失礼する」扉を開ける。
そのとき、「……まさか“VYシリーズ”があの文書を持ち出したのか? ……」とか呟いていたが、その言葉が誰かに聞き取られることはなかった。
***
「では、行きましょう」
ルカは魔方陣を書き上げ、剣を中心におき、言った。
「……呪文は覚えた?」
ルカは笑いながら、言う。
それにレンは頷く。
それを見て、ルカは魔方陣から離れる。
レンは、深く深呼吸して、
「いくぞ」
重い、深い、低い声で言った。
「――今、霊装を所持し、霊装の自己決定権のもとに選ばれたものにして命ずる――!!」
「――四大元素の名のもと、今ここにサーヴァント・ブレイズを体現し、われと契約させることを命ずる――!!」
カッ!! と閃光が剣と魔方陣を包み込む。
「うわっ!!」レンはその閃光に思わずよろめいた。
そして。
光が和らいで。
風景が確立していって、レンは魔法陣の方を見た。
そこにいたのは――少女。
黒い服に身を包んだ赤い髪の少女が、そこにはいた。
「問う」
赤い髪の少女はレンに、その髪よりも紅い眼を見せつけ、睨んで言った。
「我が名はブレイズ。おまえは私のマスターか?」