第二話
「ミク姉さんを探しに……。行く当てはあるの?」
戸惑いを通り越して半ば呆れ返ったレンを尻目に、リンは話を続ける。
「えぇ。実はこの前、東の大国シシリアル帝国でミク姉さんに似た姿の女性を見たという発言があったの」
「シシリアル……。インターネット家の支配する国家だね」
「ええ……。そもそも、ミク姉さんは私たちと会ってくれるかもどうかわからないけどね……」
***
――あれはいつの頃だろうか。
ミクの好きなネギを誰かが捨ててしまったのだ。
――「たかがそれだけで」そう思っているのも多いだろう。
だが、この国に限ってはそれは言えないことだ。
この国は砂漠に囲まれた国。植物の殆どが育たない国。
だから、あるときくる一定の輸入物質が総て。
そもそもこの世界には“ネギ”というものが見つかったばかりで、食べることをする人なんていなかった。
でも、ミクだけは食べていた。ひとり、こっそりと。
“ネギ”は需要の低さから月に一本だけしかこない。それをミクは密かな楽しみとしていたのだった。
しかし。そこにイレギュラーな事態が発生する。
リンがそれを捨ててしまったのだ。
「どうしてこんなのが来るの?」その一言を言って。
その後、彼女はリンを盲目的に嫌っていた。心を閉じていた。
***
「……でも彼女を救いたいのでしょう?」
ふと、我にかえると、レンの後ろにすらりと長い赤い髪の女がいた。
黒い、チャイナドレスに似た衣装に身を包んでいた。
「……ルカ姉さん。なぜここに」
「あら、リン。あなたがよんだんじゃない」
「……そうでした。忘れてましたよ」
にっこりと微笑みながら、リンは言う。
「……ルカ姉さん」
レンが続けて尋ねる。
「……レン」
「なに」
「今からルカ姉さんと一緒に行って。ルカ姉さんならシシリアルの地理にも詳しいから」
彼はしばらく黙っていたが、何かにケリがついたのか、頷いた。
***
そのころ。
暗闇の部屋とも知れぬ空間の中。
「――コード“VY1”。起きろ」
男とも女とも子供とも老人とも思いつかぬ声は、言う。
「――マスター。どうしましたか」
落ち着いた声――VY1と呼ばれた声――は答える。
「――スクヴァトスの王子と王女がシシリアルに向かったらしい」
「――――――消せ、と?」
「ああ。手短に、頼むよ」
その声は忌々しそうに言いながらも笑っているようにも見えた。見える訳はないのに。