不親切な喫茶店

 その日は暑かった。熱中症になってしまうほどの暑さで、俺は思わず目の前にあった喫茶店に目が行った。

 小奇麗なそれに目を奪われ、ひとまず入った。

 入ったはいいが、人がいなさすぎる。時間からしていると思うのだが、一体どうしてだろうか? まあいい、とりあえず座ろう。そう思って俺はそばにあるカウンター席に腰掛けた。注文はすぐに来た。

「アイスコーヒー、ブラックでくれ」

 しかし、店員と思われる若い男は、

「ご注文お願いします」

「……いいから、アイスコーヒーをブラックで!

 いいから急げ!」

「……かしこまりました。

 ミルクと砂糖はどうなさいますか?」

「何を言ってるんだ?

 ブラックと言っただろう?!」

「かしこまりました。

 ご注文を繰り返させていただきます……」

「ああ!

 もういいよ!

 さっさと持ってきてくれ!!

 君はいつもそうなのか!?」

 そう言うと、店員はようやく走ってカウンターの奥の方へ向かっていった。あのやろう、灰皿も置いて行かねーでやんの。そんなことを思いながら――悪びれることもなく――カウンターのそばにあった灰皿を持って、スーツのポケットにあるラッキーストライクを一本とって、加えた。

 その店員がくるのはすぐだった。だが、アイスコーヒーは愚かプレートすらない。

 その店員は、申し訳なさそうに言った。

「誠に申し訳ありません。

 当店はそのようなことに対するマニュアルがございませんので……」

 

 

了。