Rescue:01

――君は、信じられるだろうか?

 

あるとき、目が覚めたら。

 

ポケモンになっていたら――。


「おーい」

 

「……」

 

「おーい、ったら!」

 

ゆさゆさ。

 

体全体が、誰かに揺さぶられている。

 

そして、彼は目を覚ました。

 

「ふー、やっと起きたー!」

 

彼は、その声のぬしを見ようと立ち上がった。

 

「……え?」

 

彼は訳も分からず、驚いた。

 

そこにいたのは、ピカチュウ。

 

「……しゃべってる? ピカチュウが?」

 

そうつぶやくと、ピカチュウは笑って、

 

「何言ってるんだい? 君だってヒトカゲなのに喋ってるじゃないか?」

 

笑って返した。


は? と彼は呆れたが、一応自分の体を確認しておく。

 

まず、体がオレンジ色。それも濃い。

 

そして、指が4本しかない。それだけを見て人間でないことは明らか。

 

しかもしっぽが生えていて、なおかつその先端から炎が生えている。

 

「……おれはほんとに、ヒトカゲなのか?」

 

「なにいってるんだい、まるでじぶんはヒトカゲじゃない別の存在だったけど変化してヒトカゲになったといってるようなものじゃないか」

 

 

ピカチュウは笑って答えた。

 

「あ、そうだ。名前を」

 

彼は言った。

 

「僕? 僕はヒカリっていうんだ!」

 

「……一応聞くけど女」

 

ビリビリィ!!

 

彼が言い終わる前に、ヒカリが猛烈な電撃を放つ。

 

「いま、なんかいった……かな?」

 

しかし特に驚く様子も見せず。

 

「……いや、なにも」

 

と答えた。

 

「んじゃ君の名前は? お互い名前で呼ぼうよ」

 

「俺は」

 

彼が言う名は、かつて人間の世界で呼ばれていた名前。

 

「……カナタという」

 

「カナタ、か。よろしくね」

 

「ああ」

 

ふたりは握手を交わす。

 

そして思い出したかのように、

 

「ところでさ、君。『救助隊』に入らない?」

 

「……え?」

 

突然のことで何が何やら。

 

「どういう意味?」

 

「そのまんま。困ってる人を助ける『救助隊』! 目指すは伝説のルカリオランクだよーっ!!」

 

「ちょっとまって。なにがなんだか」

 

「えーとだね」

 

彼女は救助隊とは何か。と説明しようとしたが、

 

「そうだね。まずは実際に経験したほうがいいんじゃないかな」

 

「え?」

 

 

ヒカリはカナタの手を引っ張り、

 

「これから“救助”しに行くんだよ。さ!」

 

「え、ええ……??」

 

カナタはただヒカリに引っ張られていくだけなのだ。

 


ちいさなもり。

 

街の外れにある名前のとおり、小さな小さな森。

 

そこを二人は歩く。

 

「……ここは」

 

「ちいさなもり、というの。救助隊を目指すものはかならずここで特訓してるわ。というかここは子供の遊び場なんだよね。だからよく子供が行方不明に」

 

「それって遊び場になってなくね?」

 

「私たちの今日の目標はどこかにいるキャタピーの女の子を探すことよ!」

 

「聞いてねえし……」

 

ともかく二人は話しながら、奥に進む。

 

すると、

 

「あ、ポッポ」

 

「よし、ここは俺に任せろ!!」

 

「ヒトカゲ、ひのこ!!」

 

「……ヒトカゲはあんたでしょ」

 

ヒカリはそう言って、雷をポッポに向けて放った。

 

それが命中し、ポッポは倒れた。

 

「お、おい。やりすぎじゃ……」

 

「あんた何言ってるの? あくまでも気絶するだけじゃない。しばらくしたら自然にエネルギーを回復して復活するわよ」

 

そう言って、ヒカリはすたすたと歩いていった。

 

「ま、まあ……そうだよな」

 

そう言って、カナタも歩いていった。

 


そして森の奥地。

 

「ついたわ。きっとここにキャタピーの女の子が……」

 

ヒカリが辺りを見渡す。

 

「暗くなってきたな…… 何かでそうだ」

 

「何言ってるのよー。オトコノコでしょー」

 

さらにヒカリは進む。

 

「あ、いたいた!」

 

指さした先には、キャタピー。

 

――の女の子。

 

足を怪我しているのか。横たわっていた。

 

「だいじょうぶ……?」

 

ヒカリは近づく。

 

「……なんか、嫌な予感が」

 

カナタがそう言った瞬間、

 

ぞわり、と背中を何かが走り抜けたような悪寒を感じた。

 

「……よけろ!! ヒカリ!!」

 

きづかないうちに彼は叫んでいた。

 

「……え」

 

彼女はその言葉を聞き立ち止まる。

 

――そして、彼女の目の前にエネルギーの塊が激突した。

 


「……あーあ、まさかあんなとこで足止めが入るとはなあ」

 

空に声が響く。

 

「……誰だ?」

 

ヒカリは四つん這いになり、体を丸め、頬の電気袋からバチバチと火花が飛び出ている。

 

臨戦態勢だ。

 

しかし声は笑うだけで。

 

「いけませんよ。少女(レディ)がそんなことしちゃ」

 

そしてそれは姿を現す。

 

そこにいたのは――黒い髪の赤目の少女。

 

「……なにものだ?」

 

「わたし?」

 

カナタの言葉に、笑いながら答える。

 

「私は……ブラッキーのアカツキ。たぶんあんたたちの前にこれからも出ると思うから、覚えておいてね」

 

「カナタだ。そしてそこにいるピカチュウはヒカリ」

 

アカツキのセリフに、カナタは答える。

 


アカツキは去っていった。

 

ふたりはキャタピーの女の子――歩けないので、カナタが背中におんぶしている――を連れて森を出た。

 

「ところで……森の奥であったあの女の子」

 

「アカツキ、とかいってたの?」

 

ヒカリの言葉にカナタは頷く。

 

「……なんか変な奴よねえ」

 

「え?」

 

「村にあんなのいない、ってことよ」

 

ヒカリはカナタに向けて指さす。

 

「ここはこの島でもいちばんちいさな集落なの。たぶんあいつは“独立都市”の連中よ」

 

「独立都市?」

 

「この島の西にあるおおきな都市よ。あそこだけで活動できるようにできているから『独立都市』」

 

「なるほど」

 

「さ、明日から救助隊、頑張るわよーっ!!」

 

「って、俺も入ってるのかよっ!!」

 

――かくして、

 

ヒトカゲのカナタ。

 

ピカチュウのヒカリ。

 

二人の『救助隊』としての大きな冒険が始まった――!!