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 ミックたちは、ヘリに乗せられて大統領の邸宅にやってきた。
 大理石で作られた煌びやかな建物で、ミックたちが使っている訓練場とは天と地の差があった。
「……すごいなあ」
 ミックはキョロキョロとあたりを見渡しながら歩く。
「隊長。そうキョロキョロするな」
 ガッツの厳しい声でミックはやめる。
「……さあ。到着しました」
 兵士の声で、魔導第0部隊に緊張がもどる。
 これから出会うのは、大統領。曲がりなりにも、国のトップと出会うのだから。
「……失礼します」
 木で作られた趣のある大きな扉を、ミックはノックする。
 そして、入っていった。
 

 

 意外と、大統領の部屋は質素であった。
 小さな机に、小さな廻り椅子。
 そこに腰掛ける白髪の混じった髪の男。その男こそが、この国のトップ、大統領なのだろう。
「……いやいや。すまないな。疲れている体に無理を言ってしまって」
 大統領は優しい、すべてを包み込むような声で言った。
「……いえいえ。大丈夫です」
 ミックが応答する。
「手短に説明させていただいてもよろしいでしょうか? ミック隊長は相当な傷を負われているので」
 エレーヌが一歩前に出て、尋ねる。
「……よかろう」
「では、話させていただきますわ」
 エレーヌは、そう言ってこれまでのことを淡々と話し始めた。


***


「ふむ。なるほど……。ノード博士。あなたがIEMをオーバーロードさせるようにしたわけか」
 大統領の声に、ノード博士は静かに頷く。
「ブラッド・サースティーは骨董品や美術品、文化的、歴史的に価値のあるものばかりを手に入れててねえ。倉庫を見たかね? 結構なものがあっただろう?」
「ええ。敵ながらあの収集はすごいと思いますね」
「だろう? ……世界各地から手に入れたであろう宝。あれはたぶん『ノーボーダー・テクニカル』に回収してもらうことになる」
「NBTですか。あそこなら守られるにはちょうどいいでしょう」
「……おっと、すまない。置き去りにしてしまったな」
 大統領は、ふと横に目を見て。
「では、最後に私の名前を。バイハルム公国第73代公主ヴェント・ヴァン・バイハルムという。よろしく頼むよ」
 そう言って、ヴェントは左手を差し出す。
 それを見てミックは左手をだし握り返した。

 


***


 ミック・サフレス率いる魔導第0部隊は3日間の休暇が与えられた。
 簡単に言えば、『ブラッド・サースティー本部』の後片付けや治安維持。そのためのものだ。
「まあ、修行ですけどね」
 エレーヌはつまらなさそうに廊下を歩いていた。
 隣にはクレア。
「にしても、まさかあのスーツが壊れてしまうなんて……。あれは『クロムプラチナ』って言って、プラチナの強度と炭素の柔軟性を持ち合わせたものでそんな簡単にこわれるはずないんですよ……」
 悲しそうにクレアは話していた。
「たしかそれもノード博士が作ったものでしたわね」
「いえ。違いますよ?」
「へ?」
「これを発見したのは、たしかアイゼン・サフレス博士ですよ」
「サフレス……?」
 エレーヌは、どこか喉に突っかかるような感じだった。
「……たしか、隊長の苗字もサフレスでしたっけ? あのときは隊長のこと聞けませんでしたけど……」
「……人間には穿繰り返されたくない過去があるものなのですよ」
 そう言ってエレーヌとクレアは廊下を歩いていった。