File:16

「くそっ!! 連れ去られた!!」
 ミックは消えていって、もういないロマとジョンのいた場所をみて、叫んでいた。
「……まさかまだ生きているとはな。身体を真っ二つに切ったはずなのに。どこにそんなカラクリがあるというのやら」
 ガッツは大剣の手入れをしながら、話す。
「……しかし隊長補佐官が消えてしまったとなると、けっこう痛手ですわね」
 エレーヌが腰に手をやって、言った。
「まあ、みた感じこのビルの構造は単純だから、なんとかなると思うよ」
 ミックは自らを嘲け笑って言った。
 とにもかくにも、どこに奴が行ったのか手がかりがない限り、むやみやたらに動くわけにはいかなかった。
 ここは現実の世界。魔法を使うにも、この世界の"魔法"とやらも「Aのエネルギーを別のBのエネルギーに置換する」というだけ。なんと現実は残酷か。
「……だからこうしてみれば、いいと思うのです」
 そう言ってエレーヌは床に手を当てる。
「なにをっ」
 ミックが言葉を言いきる前に、その反動はやってきた。



 ドゴム!! とエレーヌのまわりの床がひしゃげて、割れたのだ。その衝撃でエレーヌは落ちていく。
 が、その落ちていく速度はとてもゆっくりだ。まるで天使が舞い降りたように。
 そしてエレーヌはしずかに床に着いた。そしてエレーヌは大きく丸を作る。「ok」ということだ。
 それをみてみんなも続々と下に降りる。
「エレーヌ。どうやって床を?」
「床からの垂直抗力を反対の向きに送ったのですわ」
 ミックが尋ねると、端的にエレーヌは答えた。
「まあ、みなさい。そこを」
 エレーヌが指さしたその先には。
 牢に捕らえられたロマの姿があった。
「ロマ!!」
 ミックはおもいっきりさけんで、走る。
 しかし、見えない壁に走りを遮られる。
「遅かったな」
 ジャキッ、という音がミックの耳元にひびいた。それは冷たく、重い音だった。
 銃。
 いくらなんでもこの至近距離から撃たれればIEMから力を引き出すのが、間に合わずに、死ぬ。
「ジョン。貴様……」
 ガッツが大剣を構え、ジョンに向かって振り落とされる――!!
 ……はずだったのに。
 その大剣は何かに阻まれた。
「・・・・・・これは・・・・・・!!」
「シールド、さ」
「これはIEMの?! まさかあなたも……!!」
「ああ。そうさ」
 そう言ってジョンはポケットから黒い、そしてさいころくらいの大きさの箱を取り出した。
「研究所から奪ったIEM。これは便利だなァ? こんなシールドが簡単に作れるんだからサ」
 そう言ってジョンはIEMを仕舞う。
「さあて、おれは君たちに残酷なシチュエーションを与えよう」
「……なにを」
「簡単さ」
 ジョンはそう笑いながら言い、
 ドン!
 乾いた銃声が響き、ミックは倒れていった。
「君を殺すんだよ。誰も救えない状況でね? ミック・サフレス」
 そう言ってジョンは飛び散って頬についたミックの血を嘗めた。
FILE:16 fin.
To be continued by FILE:17.
2011/08/30