File:11

 更衣室。
 ミックは、プロテクトスーツ――申し訳程度に装飾の施された全身タイツを身にまとった。
 つま先から指先まで、頭を除く全てが黒い生地で覆われる。
 ビルコが言うには、これを着ることによって、ある程度の物理的ダメージを軽減できるらしい。
 そして、腰にはIEM――永久エネルギー機関。
 普段は禁じられているものの、作戦を行う今日ばかりは、建物外への持ち出しを許された。
 腰にかけたチェーンとそれを、ジャラジャラと鳴らしながら体育館の入り口に出る。
 そこには、同じようにプロテクトスーツを着込んだガッツとキャスカ、そしてロマ。
 エレーヌはその上に、いつもより丈が短いものの、青色のドレスを着ていた。
「この衣装は、私の正装ですわ。たとえ、今から行くのが戦場であっても、そのポリシーは変えられませんの」
 疑問の眼差しを向けられたからか、エレーヌはそう言って、待機していた車に乗り込んだ。


 †

 

 

 車がリスタルとの国境に到着した。
 ミックたちが降りると、先に待機していたクレアとビルコが出迎える。
「始まるんですね……」
 クレアに、いつもの元気が無いのは一目瞭然だった。
「みなさん…… お父さんのこと、よろしくお願いします……」
 深く頭を下げた。
 ミックはかける言葉も見つからないまま、ただ、黙っているしかない。
 クレアが再び顔を上げると、
「私たちはここから後方支援です! 通信はいつでも繋がりますので、何かあったら呼び出してください。みんな、がんばってっ!!」
 活気が戻っていた。
「さっさといくぞ」
 ガッツが一足先に歩き出す。
 後の3人もそれに続き、リスタルの地へと足を踏み入れた。


  †

 

 

 

 魔導第0部隊はすぐさま跳躍を開始した。
 IEMを起動させ、発生するエネルギーを己の推進力に変える。
 それによって、生身で空を飛ぶことを実現していた。
 数百キロの速度であるものの、到着まではまだ時間がある。
 ひし形の陣形で、その枠の中を飛行していたミックは、作戦をもう一度思い返す。
 今回の作戦はこうだ。
 彼らが首都を襲撃したときと同じように、国境から超高速で彼らの拠点に向かう。
 そして、何らかの方法でビル内へ進入。
 ノード博士を探し出し、保護次第脱出。
 単純明快、ただの突入作戦だ。
 軍を使うにも、普通の人間では何の陽動にも、抵抗にもならない。
 魔法相手では、ただ一方的に、兵士と武器を損失するだけになってしまう。
 ならば、その魔法で力押ししよう、と言うこと。
 加えて、こちらは“窓の無いビル”内部の情報を一つたりとも持っていない。
 作戦の立てようもないのだ。
 そうこうしている内に、目標地点に近づく。
 遺跡群に隠れるように、コンクリートの柱が一本立っている。
 着地のために、飛行速度を徐々に落としてゆく。
 残り十数km、突然、コンクリートに無数の窓が現れた。
「クソっ! さすがに気づかれたか……」
 先頭を行くガッツが、苦い顔をみせる。
「総員! 警戒態勢!」
 一番後ろを飛行するエレーヌが声を張り上げる。
 次の瞬間、窓がマズルフラッシュで微かに光り、無数の弾丸がこちらに向けて放たれた。
 魔法とは、力を、運動を操る術だ。
 弾丸を跳ね返すこともできる。
 しかし、多数の力を同時に操ることは、つまり一つ一つの運動を個々にシュミレーションするのは相当の技術を要する。
 それだけの集中力を、一気に消費しなければならないのだ。
 エレーヌいわく、1週間程度では、到底できない芸当。
 ミックは弾丸を見切り、左右に動くことで避けてゆく。
 ガッツも、小刻みに動きつつも、速度を落とさない。
 そして、窓の一つに飛び込み、その勢いで狙撃していたと思われる兵士に体当たり、気絶させる。
 一秒後には、全員がビルに侵入。
 しかし、全ての窓がただのコンクリートに戻り、辺りが暗闇に包まれた。


FILE:11 FIN

TO BE CONTINUED BY FILE:12.

2011/04/25

WRITTEN BY yassyro.