File:10

 ミックたち三人は、会議室にたどり着いた。
 扉をノックすると「どうぞ」といった声がトビラの向こうが聞こえる。
 それを確認してミックは扉を開ける。
「隊長。遅いぞ」
 開けるとすぐにガッツの声が聞こえた。
「すみません」
「いやいや、いいんだよ」
 すぐに大臣の優しい声が返ってくる。
 よくよく見ると会議室の円形の机に合わせて大臣がミックからみて(それはつまり扉からみて)真ん前に座っていた。
「……では、これからブリーフィングを行う」
 大臣はそう言って下から用意してあったであろう紙を取り出す。
 そこに描かれていたのは地図。
 ――というよりかは設計図に近かった。
「これは、彼ら、『ブラッド・サースティー』の本拠地――とされている場所だ」
「“されている”?」
 ミックは、大臣の言葉に違和感を覚え、尋ねた。
「……実は本当のところ、『ブラッド・サースティー』の本拠地は分かっていないのだよ。ただリスタルに協力を得て衛星写真を撮った。それが、これだ」
 大臣は一枚の写真を取り出す。
 そこに写されていたのは遺跡。
 別に驚くことじゃない。『リスタルといえば古代遺跡』というくらい、リスタルには大きな遺跡群がいくつも存在する。
「……これがどうかしたんですか?」
 ミックは尋ねる。
「その写真のある地点を引き伸ばしたものだ」
 大臣はさらにもう一枚取り出す。
「……これは!!」
 そこには、そのまま遺跡が写されていた。さっきの写真とは変わらない、ただの観光写真のようだ。
 “遺跡の隣にある石柱をのぞいては”。
「……これは!?」
 ミックは思わず写真を手にとって、叫んでいた。
「……それが『ブラッド・サースティー』のアジト、」
「我々はそれを『窓のないビル』と呼んでいるよ」

 


           †


「……窓のない……ビル!?」
 全員は驚いた。
「しかし、大臣殿」
 部屋の扉のそばの壁によっかかっていたガッツが尋ねた。
「……なんだね?」
「その『窓のないビル』。どうやって侵入するというのだ?」
「そう、それがキーポイントだ」
「今まで、我が軍は数多の部隊をその建物に向かわせた」
「しかし全滅。唯一一人だけが残って帰ってこれたが…… それが言うには」
 大臣は一瞬、口をつぐんだ。
 そして、意を決して言った。
「我らが銃や大砲を何発撃ってもびくともしないのに、敵が攻撃するときは“まるでその建物が意志をもっているかのように”窓が“生み出されて”そこから攻撃する、らしい」
「……えーと……それはいったい?」
 ミックは理解できず、首をかしげて、尋ねた。
「私にもわからんよ。たぶん」
「魔法が使われているのですわ」
 エレーヌが大臣のかわりに話し始めた。
「……建物全体が“魔法”にかかっているわけですね」
 キャスカが言った。
「ええ。そうです」
「しかしそうだとしたらどうやってあれほどのエネルギーを? やはり『IEM』か?」
 ガッツがエレーヌに尋ねる。
「IEMって?」
 ミックが隣りにいたクレアに尋ねる。
「えーと、『IEM』――Infinity Energy Mechanismの略で名前のとおり『永久エネルギー機関』のことですよ。いちいち言うのも長ったらしいので基本はこう呼んでます。覚えておいたほうがいいですよ」
「なるほど。すまない」
 ロマはミックとクレアのやりとりを見て、すこし敵意の眼差しを送った。
「では、話を続ける」
「もしもその壁が『IEM』を源とする魔法で覆われているとしたら、君らの魔法で打ち消すことはできないのだろうか?」
「……私たちもその方向で考えています。ともかくひとりでも中に入って建物にあるであろう『IEM』を破壊すればできるはずです」
「IEMって破壊できるんですか?」
「ええ。これを使うんですよ!」
 クレアは『待ってました!』と言わんばかりにある物を取り出す。
 それは黒い小さな立方体。
 まるでIEMのような、しかし感じはどこか違っていた。
「これは『ERM』――Energy Ravage Mechanism、『エネルギー破壊機関』とでもいうべきでしょうか。実際にはこれを『IEM』に取り付けることによってなかにある反発し続ける物質ともう一つの物質の間の反発係数は低下して、それは使い物にならなくなります。これもノード博士――私の父が作ったものです」



            †


 そのころ。
 コンクリート剥き出しの壁で出来ている部屋。
 真ん中に大きな木の机と椅子があり、その椅子に誰かが座っている。
 黒い、軍服のようなものに身を包み、深々と帽子をかぶっていた。
「失礼します」
 ノックをして、誰かが入ってくる。
「はいれ」
「はっ、」
 扉は開かれ、そこから誰かが入ってきた。
 椅子に座っている人間同様、黒い軍服、深々と帽子をかぶっているので顔はわからなかったがボディラインからその人間は女性とわかった。
「……ラングレーか。どうだった?」
「健康ですが、“あの”情報についてはしゃべってくれません」
「……そうか。わかった。観察を続けてくれ」
「わかりました」とラングレーは会釈して、扉を閉める。
「……」
 誰もいなくなった部屋で、ひとりつぶやく。
「神様にしかできない演算、か……」


FIN.

TO BE CONTINUED BY FILE:11.

2011/04/14