File:07

「練習、始めますわね」
 ロマが「用事があるから」と言って先に帰り、 ミックとエレーヌは2階に戻ってきていた。
 ミックは再びボールを持たされる。
「魔法を使うためには、“操作する力”“力の大きさ”“ 力の向き”さらに、力の操作によってどんな動きをするのか、 この4つを具体的にイメージすることが必要ですの」
「はぁ……」
「そして、それを現実世界に投影する。こうすると、 力の操作ができますわ」
「ほぅ……」
「さらに、 操作できる力の大きさと範囲の限度は人によって大きく異なってい ますの。しかも、 その限度を超えた操作をしようとすると魔法がファンブルする。 これには細心の注意が必要ですわ」
「へぇ……」
「説明はこんなところかしら。期待はしていませんけれど、 とりあえずやってみてくださいな」
「なるほど、わかりました」
 ボールを再び真上に投げ、軌道を追って見上げる。
 それと同時に、ミックは集中を始めた。
(操作する力――運動力、重力を)
 スピードが段々低下し。
(力の大きさ――ちょうど半分に)
 落下に移行してゆく。
(力の向き――重力に対して180度で)
 ミックの顔面めがけて加速を始めていった。
(イメージ――ボールが宙で静止ように)
 そして、ボールは目前まで迫る。
「イメージを、投影」
 鼻先まで残り数センチ、ボールは見事に空中で留まった。


            †


「ミック、昨日のお嬢さんが来てるわよ」
 翌日、ミックが大学から帰って部屋に着くなり、一階から呼ぶ声。
 階段を下っていると、 下から小学生の妹がツインテールを揺らしながら上がってきた。
「あれ? 今日もお出かけなの? いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
 玄関には、やはりエレーヌが待っていた。
「それでは、行きましょうか」
 エレーヌに続いて今日も黒塗りの車に乗り込んだ。


                †


「そういえば…… 無礼を承知で聞きたいのですけれど……」
「なに?」
 車中で、エレーヌが声をかけた。
「ご両親は戦争でお亡くなりになったと言っていましたけれど、 ご自宅にいたあの女性は、どなたなんですか?」
「そのことか。母の妹だよ」
 ミックは過去を思いだしながら話を続ける。
「10年以上前に兵隊の父と、科学者であり軍医だった母は、 どこかに出かけて行ったんだ。そしたら、 二人とも帰ってこないで、戦死通知だけが家に届いた。 父は実家と縁を切っていたみたいだし、母には妹夫婦がいた。 だから、僕はそこに預けられることになったんだ」
「……」
「妹も、血がつながってないんだ。 僕が引き取られた後に生まれたからね」
「そう、でしたか……」
「でも、母さんは母さんさ。血はつながってないけど、 僕にとってはかけがえの無い両親さ」
 そんなことを話しているうちに車が止まり、国防省に到着した。
 二人は車を降りて、昨日の建物へ向かう。
「今日は、部隊のみんなを紹介しますわ。 まだ顔合わせをしてない人が何人かいますから」
 建物に入って奥へ進むと、エレーヌは会議室の扉を開けた。

File:07  FIN

TO BE CONTINUED BY File:08.

2011/04/07

WRITTEN BY yassyro.