File:06
(こりゃ先が思いやられるな……)
エレーヌはそう思って、ふと階段の方を見た。
「お待ちしました。副隊長」
そこにはクレアがいた。
「それじゃあ、適合、始めますか。隊長、 1階の救護室に来てくださいね」
そう言って、クレアはまた下に降りていった。
「……それじゃあ、魔法の練習は適合が終わってから、 ということで」
エレーヌはそう言って、ミックを促した。
✝
「えーと、救護室っていってたな」
ミックはメガネをずり上げ、表札を見た。
『工作室』や『武器倉庫』―― いかにも軍隊らしい部屋ばかりだった。
『救護室』は一番奥にあった。
「失礼します」
ミックはノックをして、扉を開ける。
中には簡素な作りをしたベッドが一床。
アルコールやらの薬剤が入った小さな棚がひとつ。
洗面所や冷蔵庫もある。いかにも普通な『救護室』を表している。
クレアは部屋の真ん中、ベッドの隣の椅子に、 なにやらいろんな道具をつけて待っていた。
クレアはミックの存在に気づくと、笑って言った。
「どうぞ。ここに横になって」
「え?」
「いいから」
「はあ……」
ミックはとりあえず、ベッドに横になる。
「隊長。両親はどんなお仕事を?」
クレアが消毒液だろうか、 銀のボールに満タンになっている液体に布をつけながら、言った。
「……戦争で、死んだよ」
「……」
部屋が沈黙に包まれる。
「……す、すいません。何か急に……!!」
クレアはその場を取り繕うとする。
「いいよ、別に。ところで、」
ミックが、話を切り出す。
「はい?」
「もしかして、君のお父さんって、ノード・ カーペンター博士じゃないか?」
「……ええ」
クレアは一瞬の沈黙の後、言った。
「『永久エネルギー機関』が出来るまで、 父は科学の分野ではかなり底辺だった、と聞いてます」
「……やっぱあれはそれほどすごかったということだね」
「父はもちろん“適合”に成功したんですけど、 なぜか私は失敗したんですよね。ほら」
クレアは腕をまくって、肌を見せる。
そこにはやけどのように爛れた跡があった。
「……!!」
ミックは驚いた。
「……さて、では始めますよ」
クレアの手には注射器が握られていた。
それを腕に刺す。
――“適合”はすぐ終わった。
「はい、これで終わりです」
「え? これで?」
「はい。1時間くらいして肌に何も反応がなかったら成功です。 じゃあ、あとは副隊長の権限なんで」
「そうか。わかった」
そう言って、ミックは出ていった。
✝
しばらくして。
クレアは“適合”で使った道具の片付けをしていた。
さきほどの椅子に座って、銀のボールや注射器などを洗っていた。
そのときだった。
ドン!! と体育館全体を大きな衝撃が襲った。
最初に縦に揺れ、のちに横に揺れる。
「地震……!?」
棚に置いてあったものがドサドサと落ちる。
ついにはクレアの上に置かれていた照明灯。それもが落ちてきた。
しかしそれは、“まるでその物質だけ時間が止まったかのように” 空中に静止した。
クレアは、衝撃が収まり、何事も無く作業を始める。
そして、作業を終え、片付けをして、救護室から出る。
鍵を締めた瞬間、時が動き出したかのように、 それは地面に落下し、砕けた。
File:06 FIN
TO BE CONTINUED BY File:07.
2011/04/03