File:05

「ここが私達に与えられたスペースですわ」

 ミックたちがたどり着いたのは、体育館だった。

「……本当にここなの?」

 外から屋根の方を見上げて、エレーヌに尋ねる。

「そうですわ。魔法の訓練には、 誰にも見られない広い空間が必要不可欠ですもの」

 そして中へ入って行くと、 学校にあるそれとは明らかに違う造りとなっていた。

 2階建ての内、1階は会議室や更衣室、 休憩所など大小さまざまな部屋、 階段で2階に上がると運動スペース、 いわゆる体育館となっていた。

 建物の中には、人がまったく見あたらないが、ミレーヌいわく、 あと何人かいるが今日は帰った、とのことだった。

 3人が2階に上がると、ミレーヌが何かを思い出したようで、 ロマにこう言う。

「ロマさん、1階の工作室にクレアがいるはずだから、彼女に『隊長が2階にいるから、適合の準備をお願い』 と言って来てくださる?」

「了解しました!」

 ロマはなぜか軍隊式敬礼をビシッと決めて、階段を下りていった。

 ミックは視線をミレーヌに戻して、1つ質問をする。

「さっき言ってた“適合”ってなに?」

「車内で見た説明書に、『永久エネルギー機関を操るためには3μm四方のチップを体の中に 埋め込める必要がある』と書いてあったでしょう」

「そういえば、たしかに」

「まあ、 そのチップを埋め込んで永久エネルギー機関を使えるようになるこ とを“適合”と呼んでいるわけですわ。わずかながら、 体が拒絶反応をおこして“適合”できない方もいますの」

 自分も、その“適合”を試してみるわけで、 もし拒絶反応が起こったらどうなるのか、 とミックは一瞬ドキッとした。

「それほど大層な拒絶でないと聞いていますけれど。一応」

 ミックの表情を見て、ミレーヌはそう言う。

「適合の準備も結構時間がかかりますし、 さっそく魔法の練習を始めましょうか」

 ミレーヌは張り切って腕まくりを始める。

「はじめに言っておきますけれど、現実世界の魔法は、 娯楽で出てくるような物とは大きく違いますわ」

「あんなに便利なものではないと?」

「そうですわね。本物の魔法は、物理的・ 科学的法則に則っていますの。精神力だけで、 炎を生み出したりはできませんわ。では、魔法とは何なのか」 

 一瞬、間をおいて続きを話す。

「それは、あらゆる力の向きと、 その作用点を任意に操作する能力ですわ」

「……それだけで十分、物理的法則に反しているような気も」

「そんなことは気にしなくてよろしい。 実際にできてしまうのですもの」

 そういって、 ミレーヌは近くに転がっていたバレーボールを手に取った。

「見ていてくださいな」

 ミレーヌは、ボールを真上に思い切り投げつける。

 天井すれすれのところで落下が始まり、 上を見上げたミックの顔に向かって、直線を描いていた。

「えっ?! あぶないっ……」

 ミックは思わず目を閉じて、顔を腕でかばう。

 しかし、ボールはぶつからなかった。

 何が起きたのかと、ミックがゆっくりと目を開けると、 頭上にバレーボールが静止していた。

「これが魔法の力ですわ。このボールの重“力”と運動“力” のそれぞれ半分を逆方向の力に変換して、 空中に静止させたのです」

 ミックは、トリックが無いのかとボールの周りを手で探ってみた。

 手には、ただ空気を切る感触しか残らなかった。

 その事実に思わず言葉を漏らす。

「すごい…… こんなことが……」

「細かい規則もあるのですが、 それは後回しにしてもかまわないでしょう。まずは、 私のやったことを真似してみてくださいな」

 宙に浮かんだボールを手にとって、ミックは真上に投げた。

 先ほどと同じように、顔めがけてボールが落下してくる。

 そして今度は、 何の抵抗もなしにボールを自分の顔面で受け止めた。

 

 

File:05 FIN

 

TO BE CONTINUED BY File:06.

 

2011/04/02

 

WRITTEN BY yassyro