File:03

 

「エレーヌ・マーベラスですわ。ミック・サフレスを連れて参りました」

 トントン、と重厚な木の扉を叩くと、「入りたまえ」と低い声で返事があった。

 扉を開けて、中へと入る。

 部屋のデスクに座る初老の男性に、ミックは見覚えがあった。

 その彼は、ゆっくり立ち上がって二人の前までやってきて、ミックに右手を差し出す。

「はじめまして、ミック・サフレス君。私は国防大臣、レオン・アルティモス。勤勉な君のことだから、私のことは知っているかな」

 それに応えて手を差し出し、握手を交わす。

「はい、存じています。ノード博士とご親友だったとか」

「ああ、あいつとは腐れ縁でな。小中高大、学校はすべて一緒だった。結局、私は政治の道へ、あいつは科学の道へ進んだがな」

 レオン大臣は握手を解くと、デスクへと戻る。

「そろそろ、本題に入ろうか」そして、表情を一変させ真剣な顔つきになった。

「召集令状にも書いたが、改めて言おう。ミック・サフレス、君を魔導第0部隊隊長に任命する。がんばってくれたまえ」

「大臣、それは僕に“軍人になれ”ということなのでしょうか」

「いや、魔法をつかった民間協力部隊ということになる」

「魔法? 大臣、今は科学の時代ですよ。そんなファンタジーな……」

「魔法を愚弄しないでくださる!?」

 エレーヌは怒りを爆発させて話しに割り込み、ミックの目と鼻の先でガンを送ってきた。

「まあ、エレーヌ君。落ち着きたまえ」

 レオン大臣がなんとかなだめる。それでも、エレーヌはまだ怒りが収まらないようだった。

「一般には知られていませんけど、大昔から魔法は存在しますの。人間の力の一つですわ」

「ただ、魔法は個人によってその力の差が大きい。誰でも同じように使える科学が発展し、衰退してしまったわけだ」

 レオン大臣が説明を付け足す。

「隊長に任命されたぐらいですから、僕にはその才能があると」

 思考をめぐらせて、ミックは話す。

「そうだ、君には魔法の才能がある。その才能も、DNAを調査することによってわかるようになった」

「つまり、1ヶ月前にあった全国一斉健康調査は、採血のための理由付けだったということですか」

「本当に頭がいいんだな、君は。その通りだとも。そして、この国で一番魔法の才能があるのは君だとの結果が出た」

「私が一番だと思ってましたのに…… 私は二番で副隊長なんて信じられませんわ」

 エレーヌがまた話に割り込んでくる。

「それで、来る時に読ませられた永久エネルギー機関とは何の関係が?」

「魔法は、小説などで出てくるような便利なものではない。しかし、永久エネルギー機関の発明でそのハードルがかなり低くなった、とだけ言っておこう。私とて専門ではないのだ。これは、後ほどエレーヌ君に説明してもらう」

「わかりました」ミックは頷いて同意を表す。

「この部隊は、これらから言う任務を遂行するために結成されたといっておこう。ブノー襲撃事件にかかわるものだ」

「あれですか……」

「あの時、ノード博士が拉致されたことは知っているな? この3週間、敵の潜伏先を見つけ出し、なんども奪還作戦を実行した」

「その全てが失敗に終わった、ということですか」

「そうだ、突入した兵士全員との連絡が途絶えた…… よって、この任務を君たちに託そうと思う。魔法に対抗できるのは、魔法しかないのだ」

「相手も、魔法を使ってくると……」

「敵組織の名は“ブラッド・サースティー”、過激派傭兵集団だ」

 レオン大臣は話を続ける。

「作戦は一週間後、12月17日より決行する。作戦の詳細は、後日ブリーフィングを行う。作戦までの一週間、ミック君は魔法の修練をしたまえ。講師は、エレーヌ君だ」

「……わかりました。でも、」

 ミックの言葉が止まる。

「でも、なんだね?」

「僕は、誰かを殺したり、傷つけたりは絶対にしません」

 ミックはうつむいたまま「失礼しました」と言うと、大臣室を後にした。

 

 

FILE:03 FIN

 

TO BE CONTINUED BY FILE:04

 

2011/03/29

 

WRITTEN BY yassyro