File:02

 外には黒塗りの自動車がミックたちを待っていた。

 扉の前にはいずれも黒いコートに身を包んだおとこが二人。身長はミックよりも高い。

「……ああ。彼らは特務部隊。それなりのことはできるから」

 エレーヌは取ってつけたように言いながら、歩く。

 それを察し黒服の男の一人は扉を開ける。そのまま、エレーヌは車の中に入り、先程から立ち止まったままのミックを車内に誘うように手招きしている。

 とりあえず、ミックはそれに従った。

 ミックが車内に入り、座ると、すぐに扉を閉め、二人は乗り込み、すぐにエンジンをかけ、車を走らせる。

 

 

         ✝

 

 

 

「ハイ」しばらく走るとエレーヌが一つの封筒をミックに渡す。

「それ、着くまでに読んでおいてね」

 封を切り、中から物をとり出す。

 なかには書類があった。研究用の資料とも取れる。

 一枚目には『永久エネルギー機関について』と書かれていた。

 そしてその下には『オーバー・エネルギー研究所』と書かれて判が押されていた。

「永久エネルギー機関ってノード博士が開発したあれですか」

「あら? さすがにご存知だったかしら?」

「僕は医大生です。今は『永久エネルギー機関』を医学に取り入れる論文を書いたりしてます」

「そうね。ま、読んどいてね。“あなたはそれを覚えなくてはならない”から」

 エレーヌのその言葉を聞いて、改めて書類に目を通す。

 一枚目。そこには『永久エネルギー機関』の概型と内部構造、そしてその理論について。

 永久エネルギー機関とは、反発係数の値を任意に変化できる物質を利用することにより、莫大なエネルギーを発生させる機関のこと。

 小さいものは手のひら大の大きさから大きいものはひとつの国の面積ほどの大きさまで。様々なものがある。

 先述の小さいものでも最大12億ジュールものエネルギーを生み出すことができる。――こんなことがつらづらと書かれていた。

 実質成績優秀であるミックは全てを知っていたわけだが。

 そのほかのページには『永久エネルギー機関を操るためには3μm四方のチップを体の中に埋め込める必要がある』だとか『永久エネルギー機関の技術はこの国にしかない、門外不出のもの』だとか『ノード博士は永久エネルギー機関の進化したものを既に完成させていた』だとか、そこまで必要のない知識ばかりだったので、ミックは書類を見るのをやめた。

「――ついたわよ」

 エレーヌの声で、ミックは我に帰り、前を見た。

 そこにはとてつもなく大きな鉄の扉。周りも同じように鉄の壁で囲まれている。そしてその壁には『国防省』と書かれていた。

 

 

 

      ✝

 

 

 

 車は鉄の門をくぐり、さらに中に進む。

 なかにはさらに大きなコンクリート製の建物があった。

 そして奥には戦闘機の飛ぶ音や、銃を撃つ音が聞こえた。

 たぶん軍隊の基地が奥にあるのだろう。

「さ、行くわよ」

「え? どこに?」

「馬鹿ね。分かっているんじゃない?」

「大臣の部屋、よ」

 

 

 

         ✝

 

 

 

 

 壁から床から天井から、すべてが大理石で作られた廊下をただ二人は歩く。

 そのとき向こうから誰かが走ってきた。

「エレーヌさん!」

 笑いながら、走ってくる。

 そこにいたのは、年齢はミックよりも少し下に見えた、元気はつらつな女の子だった。黒色のショートヘアーで、頭にを丸めたものを巻きつけている。また、ズボンに正方形の、ルービックキューブのようなものがチェーンでつながって付けられていた。

「あら? クレア。どうしたの?」

「どーしたもなにも、うちのヘリコプターオンボロなんですよ~! そろそろ新しいの申請してください~!」

「……そうね。じゃあ申請してみるわ」

「あれ? こちらの方は?」

「“あなたの上司になる予定”の人よ。名前はミック・サフレス」

 エレーヌからの紹介を受け、ミックはぎこちなく、おじぎした。

 クレアもそれを返す。

「私はクレア。クレア・カーペンター! 魔導第0部隊の専属メカニックよ。じゃあ、エレーヌさん。ちゃんと申請してくださいねっ」

 そう言って、クレアは走っていった。

「さあ。行きましょう。大臣が待ってる」

 エレーヌのその言葉と共に2人はまた廊下を歩き始めた。

 

 

FILE:02 FIN

 

TO BE CONTINUED BY FILE:03.

 

2011/03/27