第9話

「ここが、カナリア村か……」

 ダグラスたちはマザーズデイの北にあるカナリア村へとやってきた。

「なんでもここにはメスなのに美しい歌声を聞かせてくれるカナリアのローラがいますからね。

 いつもならここにも人が多いんですけど……、やっぱり、あれの影響なのかな……」

「あれ、って?」

「シュークリーム動物園の噂ですよ。

 怪しい動物が塀を超えてあたりをちらついてるらしいです。

 なんだか狂っちゃってるみたいで。おかげで東に行く橋も今封鎖されているんですよ」

「へぇ……。それは知らなかったなぁ……。

 カナリア村にきたのもたぶん覚えてないくらい昔だろうし……」

「あっ! あそこにお兄ちゃんみたいな人がいるよー!」

 ダイアナとダグラスの会話を断ち切るかのように、ピッピが指差して、言った。

 それは、カナリア村の入口。

 そこにいたのは、少年だった。

 ダグラスにそっくりな少年だった。

「……なんで、あそこにいるんだ……?」

 ダグラスが不審に思うと、少年は振り返って、

 そして、笑った。

 

 

***

 

 

「はじめまして。

 ……あなたがダグラスさんですね?」

「あぁ……。

 誰だ、お前は?」

「あぁ……。申し遅れました。私、」

「ネス、と言います。どうぞよろしく」

「ネス、か……」

 ダグラスはどことなく腑に落ちないものの、握手を交わす。

「で?

 なんで君はここにいるんだ?

 ただ、ここに来ただけ、ならいいんだけど」

「まぁ、それだけ“だったら”いいんですけどね」

 ネスは意味深な言葉を告げた。

「……ところで、ここへは何をしに?」

「カナリアの子供を返しにな。

 たぶん歌うカナリア、ローラの子供だろう、ってな」

「なるほど。

 それじゃ、アドバイスをしておきますよ」

「?」

「……木を隠すなら森の中、ってね」

 そう言ってネスはカナリア村から立ち去っていった。