第1話

 19xx年。
 一組の夫婦が行方不明になりました。 
 夫の名はジョージ。妻の名はマリア。 
 それに関して、村の人たちはなんども近くを回ったり、探したりしましたが見つかりませんでした。
 2年ほどしてジョージは戻ってきましたが、彼は戻ってきた後は何も語ろうとせず、 
 怪しげな地下室に篭もり不思議な研究に没頭するようになっていました。 
 しかし、マリアはついに戻っては来ませんでした・・・。

 

***

 

 

 そして、1988年。
 ダグラスという少年は自分の部屋で本を読んでいた。
 ここは、マザーズデイの外れにある小さな家。
 少年は本を読むのが好きだった。だからといって所謂引き込もりみたいな感じでもないし、彼自身よく友達の家に遊びに行ったりしている。だが、今日は雨で、それもできなかった。
「眠いな……。ちょっと廊下でも歩いてくるかな」
 机の上にあった電気スタンドを消し、ダグラスが外に出ようとした、そのときだった。

 

 

ガサッ

 

 

 何かが動いたような気配がした。
「……なんだ?」
 ダグラスは持っていた本を、ゆっくりと構え、振り返った。


 そこにあったのは、電気スタンドだった。
 しかし、その電気スタンドは“彼の机の上にあった”ものだった。
「……なんで、動いてるんだ?」
 彼がそう考えるのも束の間、
 電気スタンドはダグラスに向かって攻撃を開始した。
「うわっ?!」
 ダグラスは思わず持っていた本で電気スタンドを叩き落とした。
 電気スタンドはそれでも落ちることはなく、空中に浮かんでいた。
「……なんで、電気スタンドが……!!

 まずはこいつを……!!」
 そして、ダグラスはもう一発電気スタンドに本による攻撃を行なった。
 それを受けて、電気スタンドは床に落ちた。もう、動くことはないようだった。
「なんだ……。驚いた……」
 しかし、
 彼の部屋全体が、おかしいことになっていたのに気づいた。
 揺れているのだ。
 地震のように、小刻みに揺れていた。
「なんだー!?

 今度は一体?!」
 彼はそう叫んで、急いで部屋の外へ出た。

***

 

 出ても、揺れは収まる気配はなかった。
「あいつらはどうしたんだ……!!

 出てくる気配がないけど」
 あいつら、とはダグラスの双子の妹、ミニーとミミーのことだ。あまりにも似すぎてて親ですらわからないのだ。ちなみに髪の色以外はそっくりなので、周りの人間は髪の色で判断している。
 とりあえずダグラスは右のミニーの部屋へ入った。
「おにいちゃん、たすけて!

 電気スタンドがいきなり暴れ出したの!」
 部屋に入るやいなや、ミニーがダグラスに抱きついてきた。
 部屋の奥ではさっきと同じように電気スタンドがふわふわと浮いていた。
「なんなんだよっ……!!」
 そう言ってダグラスはさっきと同じように電気スタンドに攻撃をした。
――さっきよりは効率よく倒せた(?)ようで、一撃で動かなくなってしまった。
「……ミニーの部屋がこうなら、ミミーも……!!」
「おにいちゃん!

 ミミーもさっき泣いてる声が聞こえたの!

 急いで助けてあげて!」
「言われなくても解ってるさ」
 そう言ってダグラスは隣にあるミミーの部屋へ向かった。
 ミミーの部屋では彼女がよく遊ぶときに使う人形が暴れていた。
「おにいちゃん!!」
「待ってろ、ミミー。

 今助けてあげるからね」
 そう言ってダグラスは人形に先程の本を投げつけた。
 そして、人形がこちらを振り向いた、その隙を狙ってさらに一撃拳を叩きつける。
 直後、人形は動かなくなり、
 ひとまず不思議な現象は収まったようだった。
「……ふぅ」
 ダグラスは事態が収束したのを確認して、床にへなへなと座り込んだ。
「おにいちゃん、」
「ん?

 なんだい、ミミー」
「なんだか、お人形さんの中に何か入ってるみたい」
「……なんだって?」
 ダグラスはそれを聞いて、急いで人形を手に持つ。
 もう動かなくなったそれの中には、小さなオルゴールが入っていた。しかし、もう壊れていたのであったが。
「なんだ……?

 もう錆びてるじゃないか……。

 回すのも重いし…」
 そんなことを言いながら、彼はハンドルを回した。
 大体、一周回した辺りでもういいだろう、と判断して手を離した。
 そのあと、聞こえたメロディはどこか懐かしくなるようなそんな感じだった。
 古臭い感じはあるが耳に残る……名曲とはこんなものなのだろうか。
 それがどんな曲はわからないが、ダグラスはそれを心に刻んだ。
 ミミーからオレンジジュース×7をもらって、ダグラスは下に降りてきた。
「いくらなんでも……多すぎだろう……」
 そんなことをつぶやきながら。
「あぁ、ダグラス。

 大丈夫だった?」
 訪ねてきたのはダグラスの母親――キャロルだった。
「この家はいったいどうなっているのかしら……。

 こんなときにパパが居てくれればいいんだけどね……」
 パパは今、単身赴任でレインディアにいる。最近レインディアでは風邪が大流行しているらしく、かからないように気を付けているんだという。
「あ、電話だ。

 ちょっと出てもらっていいかしら?

 これからご飯を作らなきゃならないから」
 キャロルはそう言ってキッチンへと向かっていった。残されたダグラスは仕方なく受話器をとった。
「もしもし?

 ダグラスか。調子はどうだ?」
 少し咳き込みながら、言った。この声はパパだ。
「調子?

 全然だよ。

 さっきだって急に電気スタンドが暴れ出したりするし」
「電気スタンドが暴れる?

 ……ふむ、それはたぶんラップ現象だな。

 パパには正直それがどういうやつなのかはさっぱりわからない……。

 けど、曾祖父がPSI(超能力)の研究をしていたはずだ。

 地下室を探せば何かわかるかもしれない。

 ……えーと、地下室の鍵はどこへやったっけ?

 忘れてしまったなぁ。

 まあ、私が今そこへいけない今、お前だけが頼りだ。

 頼むぞ!!」
――強引に締めて、電話を切られてしまった。