05

「本は手に入ったのかい?」

 次の日、宿屋で納豆ご飯を貪るように食べているロゼに、トレイクは尋ねた。

「ええ。

 あんなに弱かったとはね。

 イチコロでしたよ」

「……幻覚を見せていたんだろ?」

 ぴくり、とロゼの箸の手が止まる。

「な、なぜ解ったのですか……」

「半年もいりゃ解るさ」

 そう言ってトレイクは皿に山盛りになった揚げパンの山から3つめの揚げパンを取り出した。砂糖は少し多めにかけて。

 

 

 

「さてと……帰ろうか。

 あれ?

 それはなんだい?」

 宿を発とうと整理をはじめたトレイクの目の前に五、六冊の分厚い本が置かれていた。

「ええ……。

 これはあのポンコツジジイの書庫にあった本なのです。

 いいやつを手頃に持ってきたのです」

「……それ。僕が持ってくのか?

 あの山道を?」

 こくり、とロゼは頷く。

「……そうかー。

 じゃあ風呂敷はやるから持ってけ」

「なっ?!

 この私に荷物を持たせると?!

「君にはレディの法則が通用しないもんね」

「これでも立派なレディです」

「自分でレディって言うのはどうかと思うけどね」

 彼は笑いながら、荷物の整理を再開した。

 

 

了。