01
三年前。
森の中に隠れるようにして立っている屋敷の中。
古い書籍が山ほどある書斎に、一人の男がいた。
男はあれでもない、これでもない、と呟きながら何かを探していた。
「何を探しているのかね?」
後ろから妙齢な老人の嗄れた声がかかる。
「……『悪魔の知識』が書かれていた本を」
男はそれだけを呟いた。
「それを見つけて何をする?」
「言えません」
「父の私にも隠すことか?」
男は何も答えなかった。
「……私は確かにその本を持っている。しかし本に持ち主として認定されない限りは見せることはできぬ」
ならば、男は返す。
「既にその持ち主とやらに選ばれていたとしたら。どうします?」
老人は少し驚いた顔で、
「まさか……。そんな馬鹿な……」
狼狽えたように呟いた。
「ライバート。お前が《魔道書》の持ち主として選ばれただと……? そんなこと私は断じて」
「本の権限は絶対、だよね?」
ライバートは笑いながら言う。
「良いから、さっさと出してください。じゃないと蔵書マニアで有名な貴方の本が全部燃えることとなる」
男が取り出したのは――ライターだった。
「貴様……。何をする?」
「そのまんまのことですよ。お父さん。譲って下さい。あの本を」
「……馬鹿息子めが」
苦言を呈しながらも、老人は自分の懐にしまっていた一冊の古い本を取り出した。
本の表紙は赤茶色で薄れた文字でこう書かれていた。
『操りの書』と――。