序章
昔々、とあるところに小さな城がありました。
それは砂漠に囲まれ、水も尽き、いつ果てるかもおかしくない状況でした。
しかしあるとき、ひとりの放浪者がやってきて、この城の主に言いました。
「この国を救いたければ私の言うとおりにして、『悪魔』を召喚せよ」
そう言って放浪者は一冊の古い本を渡しました。
そして。
「この本さえ読めば、たとえ王様でも悪魔を召喚することができる。そしてそれはこの国をも救うこととなる」
放浪者はそう言いました。
王様は言われたとおりに本を読み、そして悪魔を召喚しました。
悪魔は言いました。
〝――私の力がそこまで欲しいか? ならば代償と契約の証をその身に焼き付けよ。できるだけ見えるところが私の力も上がる″
と。
王様はその通りに自分の目にそれを焼き付けるよう命じました。
〝――もう後戻りはできぬぞ。いいな?〟
王様はその問いに頷きました。
〝よかろう。ならば契約だ″
――こうしてここに悪魔と契約した人間が誕生したのです。
さて。
悪魔と契約した王様による国家はどんどん豊かになっていき、砂漠を草原へと変えていった。
まさに奇跡。人がやったとは思えない所業。
それもそうだろう。
たしかに、王様は人間だ。人外などではない。
だが。
王様と契約している悪魔。その仕業だとすれば説明も簡単である。
――数十年が過ぎ、王様は齢を重ねて、傘寿と呼ばれる年齢へと差し掛かった頃。
突然悪魔が消えた。
消えたのだ。
王もすぐ、それを追ってか、死んだ。
柱をなくした国家ほどあっけないものはない。
すぐに、その国家は滅んでしまった。
廃墟となってしまった、かつての栄光は消え去ってしまった、城にひとりの人間がいた。
いや、それは人間なのか、わからない。
ただそれは、王様が生涯大事に持っていた本を拾って言った。
「ほんとうに馬鹿だなあ」
機械のような、冷たい声で。