ここは、自然と科学が点在する、カイント地方。
……の西の都と題される街、ラクラシティ。
「じゃあ、博士。ここはこのデータで良いのですか?」
白衣の女性が、少し白髪混じりの髪の男に言う。
「ああ。クリノくん。……ところで、遅いなあ……。あいつは」
「……コウキくんですか?」
助手――クリノは答えた。
「うむ……大丈夫だろうか」
「……博士も早く子離れしたらどうです? 多分向こうはもう親離れしたがってるかもしれませんよ」
クリノは机の上の大量の書類を片付けながら言った。
「ハハハ。そうかもな、14にもなれば、勝手に子供は親離れするものだな」
博士、は腰を叩き「さて、もう一仕事。彼が来るまでここを片付けねば。また何か言われてしまう」と言った。
***
話は変わり、ラクラシティそばの森。
豊富な水資源があり、ラクラシティのまわりには自然が豊かに広がっている。
故に、ラクラシティは『自然と 人工が 混ざり合う街』と言われているほどだ。
「なんなのよーっ!!」
そこに、ひとりの少女が森の中を駆け回っている。
その服装は全身ジャージでここをもとから走るための服装でない、ことがすぐわかる。
「な、なんでこんなとこ……はしんなきゃいけないのよー!!」
彼女の後ろから、大量の虫が追ってきている。
30cmほどの大きさの緑色の虫。それが40匹以上も襲ってくるのだ。想像しただけで寒気がするだろう。
「なんで……キャタピーがあんな大きいのよ!! ……てか、なんでキャタピーがこんなところにいるのよ!!」
どうやら、あの虫の名前はキャタピーというらしい。
「あ……!!」
目の前には、少年が一人。
「ちょっ……!! よけて!!」
少女は力の限り、叫んだ。
***
少年は、森にいた。理由としては精神統一をしていたのだ。
「……さて、そろそろ行かなきゃ、オヤジに怒られるな」
と、少年が立ち去ろうとしたとき、
「よけて!!」
森の奥から声が聞こえた。
「あ?」
声のした方を見ると女の子がキャタピーの大軍に追われていた。
「……なんじゃありゃ?」
「とりあえず……助けなくちゃな」
「行けっ! アチャモ!」
少年はボールを投げると、またたく間にそのボールは大きくなり、ボールがまっぷたつになり、そこから何かが出てきた。
アチャモ、というらしい。
「アチャモ!! 『ひのこ』!」
「チャモッ!」
アチャモ、と呼ばれたものは口から火を噴く。
「あ、アチャモ!?」
何より、驚いたのは、少女だった。
少年のもつアチャモが放ったひのこにより、キャタピーの大群は逃げていった。
「ふう……。助かったァ」
少女はへなへなと崩れる。
「一体何やってるんだ? 君もポケモントレーナーならポケモンを出せばいいのに……」
「え? 今『ポケモン』って言った?」
「ああ。言ったよ。君もポケモントレーナーなんだろう? 見たからして、僕と同い年くらいだし」
「いや、私はポケモンを持ってない……ここは、カントー地方かしら?」
少女は自分の中にある“ゲームの”知識から探して、言った。
「カントー? カントーはこっから遠い海の向こうだよ」
「じゃあ、ホウエン? シンオウ? イッシュ?」
「君が何言いたいのかわかんないけど……ここはカイント地方だよ」
「か、カイント地方?」
少女は、まさかの回答に驚く。
カイント、なんて地方は聞いたこともない。
「ま、ポケモンもらってなくてここを歩くなんて自殺行為だよ。そうだ! 君もオヤジ……博士からポケモンをもらえばいい! 行くよ!」
少年は少女の手を引っ張り、言った。
少年は走る。それにつられて少女も走る。
「ちょっと、あなた、名前は?」
少女は聞く。
「僕? 僕はコウキ! 君の名は?」
「……私はノゾミ」
「ノゾミちゃんか! よろしくね!」
これが、大きな冒険の始まりだとは……、
まだ誰も気づかなかったのだった。
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