第01話

 ここは、自然と科学が点在する、カイント地方。
 ……の西の都と題される街、ラクラシティ。

 

「じゃあ、博士。ここはこのデータで良いのですか?」

 

 白衣の女性が、少し白髪混じりの髪の男に言う。

 

「ああ。クリノくん。……ところで、遅いなあ……。あいつは」
「……コウキくんですか?」

 

 助手――クリノは答えた。

 

「うむ……大丈夫だろうか」
「……博士も早く子離れしたらどうです? 多分向こうはもう親離れしたがってるかもしれませんよ」

 

 クリノは机の上の大量の書類を片付けながら言った。

 

「ハハハ。そうかもな、14にもなれば、勝手に子供は親離れするものだな」

 

 博士、は腰を叩き「さて、もう一仕事。彼が来るまでここを片付けねば。また何か言われてしまう」と言った。

 

***

 

 話は変わり、ラクラシティそばの森。
 豊富な水資源があり、ラクラシティのまわりには自然が豊かに広がっている。
 故に、ラクラシティは『自然と 人工が 混ざり合う街』と言われているほどだ。

 

「なんなのよーっ!!」

 

 そこに、ひとりの少女が森の中を駆け回っている。
 その服装は全身ジャージでここをもとから走るための服装でない、ことがすぐわかる。

 

「な、なんでこんなとこ……はしんなきゃいけないのよー!!」

 

 彼女の後ろから、大量の虫が追ってきている。
 30cmほどの大きさの緑色の虫。それが40匹以上も襲ってくるのだ。想像しただけで寒気がするだろう。

 

「なんで……キャタピーがあんな大きいのよ!! ……てか、なんでキャタピーがこんなところにいるのよ!!」

 

 どうやら、あの虫の名前はキャタピーというらしい。

 

「あ……!!」

 

 目の前には、少年が一人。

 

「ちょっ……!! よけて!!」

 

 少女は力の限り、叫んだ。

 

***

 

 少年は、森にいた。理由としては精神統一をしていたのだ。

 

「……さて、そろそろ行かなきゃ、オヤジに怒られるな」

 

 と、少年が立ち去ろうとしたとき、

 

「よけて!!」

 

 森の奥から声が聞こえた。

 

「あ?」

 

 声のした方を見ると女の子がキャタピーの大軍に追われていた。

 

「……なんじゃありゃ?」

「とりあえず……助けなくちゃな」

「行けっ! アチャモ!」

 

 少年はボールを投げると、またたく間にそのボールは大きくなり、ボールがまっぷたつになり、そこから何かが出てきた。
 アチャモ、というらしい。

 

「アチャモ!! 『ひのこ』!」

「チャモッ!」

 

 アチャモ、と呼ばれたものは口から火を噴く。

 

「あ、アチャモ!?」

 

 何より、驚いたのは、少女だった。
 少年のもつアチャモが放ったひのこにより、キャタピーの大群は逃げていった。

 

「ふう……。助かったァ」

 

 少女はへなへなと崩れる。

 

「一体何やってるんだ? 君もポケモントレーナーならポケモンを出せばいいのに……」
「え? 今『ポケモン』って言った?」
「ああ。言ったよ。君もポケモントレーナーなんだろう? 見たからして、僕と同い年くらいだし」
「いや、私はポケモンを持ってない……ここは、カントー地方かしら?」

 

 少女は自分の中にある“ゲームの”知識から探して、言った。

 

「カントー? カントーはこっから遠い海の向こうだよ」

「じゃあ、ホウエン? シンオウ? イッシュ?」
「君が何言いたいのかわかんないけど……ここはカイント地方だよ」
「か、カイント地方?」

 

 少女は、まさかの回答に驚く。
 カイント、なんて地方は聞いたこともない。

 

「ま、ポケモンもらってなくてここを歩くなんて自殺行為だよ。そうだ! 君もオヤジ……博士からポケモンをもらえばいい! 行くよ!」

 

 少年は少女の手を引っ張り、言った。
 少年は走る。それにつられて少女も走る。

 

「ちょっと、あなた、名前は?」

 

 少女は聞く。

 

「僕? 僕はコウキ! 君の名は?」

「……私はノゾミ」

「ノゾミちゃんか! よろしくね!」

 これが、大きな冒険の始まりだとは……、
 まだ誰も気づかなかったのだった。